立小便禁止

中国人観光客急減

 高市首相の国会答弁に反発した中国政府が、日本への制裁として、自国民に日本観光を自粛するよう求めたため、中国からのインバウンド客が急減しています。

日本を訪れるインバウンド客で一番多いのは中国人でしたから、観光収入を減少させて日本を困らせ、国民が高市政権に反対するように仕向けたつもりでしょう。

日本のマスコミも中国政府に同調して、ニュースやワイドショーで「ホテルや旅行会社が困っている、大変だ!」と騒いでいます。

しかし、大多数の国民は中国人観光客減少をよろこぶという、中国政府や日本マスコミの期待とは逆の反応を示して、高市首相の支持率はかえって上昇しています。

というのも日本ではインバウンド客がふえすぎて、有名観光地はオーバーツーリズムに悩まされており、その中でも中国人観光客のマナーの悪さに困り果てていたからです。

行列に割り込む、ところかまわず大声を出す、そこらじゅうにゴミをまき散らす、ホテルや旅館の備品をこわすor勝手に持ち帰る‥‥。

とくにひどいのが路上で大小便をすることで、「中国人」「路上」で検索すると「中国人路上排便」がただちに出てきます。

ネットに流れているニュース解説では「中国人観光客の『路上排便』が世界中を騒がせている」というのもあり、世界中で問題視されているようです。

もちろん中国人全員が路上で排便するのではなく、ごく一部の観光客にすぎないのでしょうが、そもそも中国人以外はそんなことをしません。

日本人は昔からそんなことしないゾ!と言いたいところですが、江戸時代の日本では道ばたで男性が立小便したりや幼児の用足しはあったため、明治の軽犯罪法「違式詿違条例(いしきかいいじょうれい)」にも路上排便を禁ずる項目があります。


便所にあらざる場所で排便してはいけない

明治11年に東京で出版された細木藤七 編『違式詿違条例』(洋々堂刊)は子供でも理解できるようにと各条文をイラスト付きでしめしたものです。

その第49条には「市中往来筋において便所にあらざる場所へ小便せしむる者」とあり、第50条は「店先において往来に向い幼児に大小便をせしむる者」となっています。

条例で禁止するということは、東京でも往来で立小便をしたり、子供に排便させたりする人がそれなりにいたということです。

細木藤七編『違式詿違条例』より(国立国会図書館デジタルコレクション)


ここで注目したいのは、「便所にあらざる場所」という言葉です。

というのも、江戸時代には町人の大多数は長屋住まいで、便所は住居の外にある共用のものを使っていました。

また人通りが多い場所には、下の浮世絵に描かれたような公衆便所が設けられていました。

話がはずれますが、主人の武士が用をたしているあいだ、外でひかえる家来たちが鼻を押さえているところは妙にリアリティーがあります。

広景『江戸名所道化尽 嬬恋こみ坂の景』(国立国会図書館デジタルコレクション)


臭いものに蓋

江戸時代は便所にたまった糞尿に商品価値がありました。

というのも、糞尿を肥料として利用したため、近郊の百姓が町に糞尿を買いにきたからです。

長屋の共同便所の糞尿売却代金は家主の収入となり、その代金を使って花見のような長屋全体のイベントを行なっていたので、住民も大小便はできるだけ長屋の便所を使うようにしたとのことです。

糞尿を買った百姓は便所からくみ取ったものを肥桶(こえおけ)に入れてはこぶのですが、とうぜん周囲に悪臭がふりまかれます。

この状況は時代が明治に変わってもつづいていました。

そのため、違式詿違条例では「下掃除(げそうじ:便所のくみとり)の者、蓋(ふた)なき糞桶(こえおけ)を以て運搬する者」は罰すると定めてあります。

昇斎一景『画解五十余箇条』より(国立国会図書館デジタルコレクション)

(左の人物は鼻をつまんで「おっとあぶない、くさいくさい」と言っている)


違式詿違条例の解説書として明治12年に横浜で出版された高橋親義著『違式詿違問答 小学教用』には、この条文の解説として、こう書かれています。(読みやすくするため、現代仮名づかいに変えて、句読点をおぎなっています。原文はこちら

掃除屋なぞ蓋のなき糞桶を荷(に)ない歩くを云う。
是等は蓋のない時は、その臭き気が人の健康に害あればなり。
実に臭い物には蓋をしろとはこの事なり。
【高橋親義著『違式詿違問答 小学教用』】

たしかに糞尿の臭いはかいだだけで気分が悪くなりますから、「その臭き気が人の健康に害」あるというのは納得できます。

まさに「臭い物には蓋」が必要ですね。

最後に蛇足ですが、現在の軽犯罪法(昭和23年法律第39号)ではこのようになっています。

第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十六 街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者

昔はときどき酔っ払いが道ばたで立小便しているのを見かけましたが、現在では公衆便所に加えてコンビニのトイレが使えるからか、町中で立小便している人を見ることはまずありません。

下水道が発達したので、肥桶をかついでいる人どころかバキュームカーを見かけることもずいぶんと減りました。

なお、糞尿の悪臭(アンモニア臭)は軽犯罪法ではなく悪臭防止法(昭和46年法律第91号)で規制されていますが、対象が工場などにおける事業活動に伴って発生する悪臭とされているので、町中を蓋のない肥桶をかついで歩いた場合にも適用されるかどうかは不明です。


幕末島津研究室

幕末島津家の研究をしています。 史料に加え、歴史学者があまり興味を示さない「史談(オーラルヒストリー)」を紐解きながら・・・ 歴史上の事件からひとびとの暮らしまで、さまざまな話題をとりあげていきます。

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